レイヤー2とサイドチェーン ~ ブロックチェーンの拡張と連携

ビットコインは管理主体のない透明性・対改竄性を兼ね備えた決済手段・通貨として登場し発展してきました。しかし、参加者が増えネットワークが混雑するにつれ手数料や送金完了にかかる時間が増大し、ビットコインのようなブロックチェーンは従来の決済手段と比べ取引処理能力が著しく低い問題が表面化しています。

また、ビットコインの後には、スマートコントラクトなどの機能を持つEthereumのような新しい種類の仮想通貨が生まれ、それ以前の旧型の仮想通貨にもそのような新しい機能を実装することが求められ始めました。

そこで、単一のブロックチェーンだけではなし得ない取引能力の向上や機能の拡張を実現しようという試みがレイヤー2やサイドチェーンという考えです。

レイヤー2(Layer 2 / L2)

ブロックチェーンを一つの階層と考えレイヤー1(第一階層)としたときに、ブロックチェーン上に第二階層を構築し取引能力の向上や機能の拡張を実現しようとする概念がレイヤー2(またはセカンドレイヤー)です。

レイヤー2はレイヤー1のブロックチェーン上に構築されているので、レイヤー2上で行われた取引は最終的にレイヤー1にも反映されセキュリティもレイヤー1のブロックチェーンが担保することになります。ただし、レイヤー2内の取引の途中の過程ではブロックチェーンが利用されないため、取引の完了まではセキュリティが完全には保証されない、また最終的にはレイヤー1のブロックチェーン上に取引を乗せるため、根本のレイヤー1の取引処理能力上限の影響を受けざるを得ず能力向上には限界があるという課題もあります。

Lightning Network

Lightning Networkとは、2015年に発表された低手数料・即時取引をビットコイン上で実現しようというレイヤー2の技術です。

ウォレットや取引所における対応が徐々に広がっており、実際にLightning Networkを使った決済なども行われてはいます。ただし、セキュリティ面や利便性における課題も残っておりこれからどれだけ普及していくかはまだ不透明な状況です。

サイドチェーン(Sidechain)

サイドチェーンとは、複数のブロックチェーン間でやり取りを双方向で行い、様々な機能を実装したり取引能力を向上させようという概念です。特にメインのブロックチェーンをメインチェーン(Mainchain)としたとき、そのサブのブロックチェーンをサイドチェーン(Sidechain)と呼びます。

サイドチェーンはメインチェーンから独立して並行で動くブロックチェーンであるため、原則的にはレイヤー2と違ってセキュリティの恩恵をメインチェーンから直接受けることができず、サイドチェーンだけでセキュリティを担保しなければなりません。また、サイドチェーンはブロックチェーンである以上、メインチェーンよりも優れた取引能力を実現するためには分散性やセキュリティを犠牲にしなければならず、メインチェーンの良さを保ったまま指数関数的にメインチェーンの取引能力を向上させることは難しいです。そのため、サイドチェーンによる取引能力の向上はあくまで副次的な効果であり、機能の拡張であったり実験としての運用が主目的であるという意見もあります。

セキュリティの担保のために、特にPoWではそれぞれのチェーンで原則通り独立してマイニングを行うと、マイナーはどのブロックチェーンをマイニングするか選ばないといけないため、採掘力が分散されてしまい一部のチェーンでセキュリティのリスクが高まる心配があります。このため、メインチェーンとコンセンサスアルゴリズムなどの承認システムを合わせることで、サイドチェーンも同時にマイニング・取引承認ができるマージマイニング(Merged mining)を導入することもよく行われています。

特にPoWのときにマージマイニングと呼ばれますが、メインチェーンの承認者からセキュリティを借りられる点はコンセンサスアルゴリズムによらずその他のPoSなどにも共通するので、特にサイドチェーンであることを前提としているブロックチェーンは、メインチェーンと承認システムを合わせて同時に承認してもらうようなことがしばしば行われます。

サイドチェーンを掲げるプロジェクトは、メインチェーンと何らかの互換性を持たせたり相互作用を行うのが一般的です。ただし、メインチェーンと同じようなアルトコイン(例えばビットコインに対するライトコイン)を単純な代替利用先としてサイドチェーンとして呼ぶこともあります。

Liquid

Liquidとは、Blockstream社(ビットコインの開発メンバーの一部などから構成)が最初に発表したビットコインのサイドチェーンの実装であり、複数のビットコイン取引所・ウォレット・決済サービス等の間の流動性プール(ビットコインの共同保管場)のことです。

プールにより、取引所等サービス間のビットコインの移動が瞬時に可能となり、また共同でビットコインを保有することにより、各ビットコイン企業の破産リスクが低下するなどのメリットが生まれます。

Liquidチェーン上ではL-BTC(Liquid-BTC)と呼ばれるBTCと同じ価値を持つトークンが利用されています。メインチェーンのBTCを特定のアドレスに送信することで、サイドチェーンのLiquid上のL-BTCが同量受け取れます。逆にL-BTCを特定のアドレスに送信すると、BTCが放出され受け取ることができます。このような仕組みは双方向ペグ(Two-Way Peg)と呼ばれています。

サイドチェーンを実装しようとするプロジェクトには様々なものがありますが、最初にサイドチェーンを提唱したのはBlockstream社であるため、狭義のサイドチェーンではこのような双方向ペグがあることが大きな特徴となっています。

Rootstock

Rootstockとは、サイドチェーンを用いたビットコインベースのスマートコントラクトプラットフォームです。スマートコントラクトの実装により、ビットコインに様々な機能拡張ができると考えられています。

DECOR+やGHOSTというプロトコルを取引承認に採用することで、サイドチェーンのブロック生成間隔を約10秒程度という非常に短い時間にするため、即時送金が可能となり、ビットコインの最大可能取引量(スケーラビリティ)も大幅に上がるとしています。

また、同時にメインチェーンのビットコインと同じSHA256のPoWも採用することで、マージマイニングによりビットコインのマイナーの力を借りてセキュリティを担保しています。

オンチェーン(on-chain)とオフチェーン(off-chain)

一般的に、ブロックチェーン上で何かの処理を行うことをオンチェーン、ブロックチェーン外で処理を行うことをオフチェーンと呼びます。このため、レイヤー2はオフチェーン、サイドチェーンはオンチェーンであると言い換えることもできます。

本ページで見てきたようにレイヤー2とサイドチェーンは異なるものとして扱うことが一般的ですが、サイドチェーンの上位概念としてレイヤー2という言葉が使われることもあり、そのようなときにはサイドチェーンはオンチェーンのレイヤー2と分類することもあります。

ブリッジ(Bridge)

ブロックチェーン間で仮想通貨・トークン・その他データのやり取りを行うことは様々なアプリケーションにとって重要です。しかし、あるブロックチェーン上のものを他の独立しているブロックチェーンやレイヤーに直接移動させることは原理的に不可能です。そこで、移動したいコイン・データを元のチェーンの特定のアドレスに送信することで、移動元のコイン・データをロック、移動先のチェーンまたはレイヤーのコイン・データをロック解除というような流れにより、疑似的にブロックチェーン間やレイヤー間のコインやデータを移動または交換する仕組みをブリッジといいます。

ブリッジには非中央集権的なものから中央集権的なものまでさまざまなアプローチが存在し、開発が続けられています。

複数のブロックチェーンと横断的に接続するようなレイヤー0(Layer 0 / L0)と呼ばれるプラットフォームもあります。その名の通りレイヤー0は最も基盤的な階層として作用するもので、レイヤー0を介してデータを移動させることにより、ブロックチェーン間を直接繋ぐブリッジを毎回構築する必要がなくなります。

最終更新日: 2023年02月11日

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